はじめにー「体系数学」とは?
現在、中高一貫校で多く採用されている(と言われる)数研出版の体系数学。中1→中2→中3…という学年別の順番ではなく、中学と高校で学ぶ数学の内容を関連付けて体系的に配列した検定外教科書です。
現行の学習指導要領では高校で扱う内容であっても、中学生用の体系数学(体系数学1、体系数学2)で扱ったりしているので、一般的に検定教科書と比べてレベルは高いと言われています。
体系数学は1~5までに分かれており、1~3は各2冊、合計8冊で中学・高校範囲をカバーしています。
☒ 体系数学1 代数編(中1~中2用) ☒ 体系数学1 幾何編(中1~中2用) ☒ 体系数学2 代数編(中2~中3用) ☒ 体系数学2 幾何編(中2~中3用) ☒ 体系数学3 数式・関数編(高1~高2用) ☒ 体系数学3 論理・確率編(高1~高2用) ☒ 体系数学4(高2用) ☒ 体系数学5(高3用) |
市販の「体系数学」
『中高一貫校で使う検定外教科書』などといわれると、「難しそうな教材で、入手困難なのでは?」と思われがちです。しかし、「体系数学」は一般の書店で(中身を確認して)普通に購入することができます。
書店で購入できるのは教科書の体系数学、教科書ガイド的位置づけの体系数学 パーフェクトガイド、参考書のチャート式体系数学、そして教科書傍用問題集の 体系問題集 基礎~発展です。
端的に言えば、後述の中高一貫校専用教材の体系問題集(傍用問題集)の「標準」と「発展」以外の教材は書店で入手可能ということになります。
市販されている「体系数学」には、「中高一貫教育をサポートする」という枕詞がついているように、あくまでも中高一貫校向きの教材と思われます。我家も勢いで(?)チャート式体系数学を購入しましたが、教科書と傍用問題集でほぼ事足りているので、今のところ使う機会がほぼありません。
一方、公立中学に通う生徒さん(=高校受験をする生徒さん)の場合、わざわざ「体系数学」を使う必要性は薄く、通常の学年別のチャート式 中学数学の方が適していると思います。
中高一貫校で使用する体系数学(体系数学1と体系数学2を中心に)
中高一貫校の学校専用教材の「体系数学」は(Amazonや書店だ購入できる)市販品とは少しだけ違うようです。
体系数学(テキスト)については内容は一緒で、値段だけが若干異なるようです(確認はしていませんが…)。
一方、「準拠問題集(教科書傍用問題集)」の学校専用教材は、「標準」と「発展」の2パターンがあります(市販の問題集は、「標準~発展」の1パターンのみ)。問題集は、「発展」の方を使っている中高一貫校が多いように思います。
つまり、中高一貫校では、上記テキストと準拠問題集をセットで進めているケースが多いと思います。
なお、中学3年間で体系数学1と体系数学2(テキスト:4冊、問題集:4冊)を進めるのが標準とされていますが、実際にはこの進度よりも早い学校が多いと思います。
例えば、中2までに(中学範囲+αの)体系数学1と体系数学2をすべて終えてしまう学校は、かなり進度の早い学校と思います。
(閑話休題)数研と言えば…
数研出版と言えば「チャート式」。
赤チャート、青チャート、黄色チャート、白チャートに加えて、黒チャート(医学部入試向け)、緑チャート(大学入学共通テスト向け)まであるらしい。
「冠位十二階か?」って感じですね。 😀
(遥か昔)私の受験生時代は「チャート式と言えば赤チャート」でした。他の参考書には目もくれず、迷わず「赤チャート 数学Ⅰ」を手に取り、書店のレジに並びました。 🙂
現在より1回り小さいハードカバー表紙の赤チャート。いかにも頭が良くなりそうな参考書でした。ところが、いざ使ってみたものの、「字は小さいし、難しいし、量が多いし…」で結局挫折。その後は、(当時赤チャートと双璧だった)寺田文行先生の「数学の鉄則」を使いました。
赤チャートに比べると文字も大きくて、読者フレンドリーな参考書でした。懐かしいですね。 😉
今は赤チャートが難し過ぎるとのことで、高校数学では青チャートが主流のようですね。
話が脇道に逸れてしまいましたが、「チャート式」の数研出版ということで、「参考書や問題集の会社」という印象が強いのですが、実は「検定教科書を出版する会社」としても老舗です。
1948年に(高校)数学の検定教科書を発行しています。
特に、高校数学の教科書は過去数十年間シェア№1の座を保っており、高校理科も(分野によりますが)シェア№1か№2とのいうこと。
「理数系に強い数研」というブランドイメージには確固たるものがあります。
一方、中学用の教科書の歴史は(高校ほど)古いというわけではなく、2011年に初の検定教科書を発行しています。
体系数学の初版が2003年なので、(中学の)検定教科書の方が少し遅れて世に出たということでしょうか。
体系数学の分断現象
体系数学は体系数学1~体系数学5までの全8冊で中学・高校分野をカバーするテキストです。
理想としては、体系数学1 → 体系数学2 → 体系数学3…と1年ずつ進めていき、高2までに高校数学全範囲をカバーし、高3で大学受験準備を行うという流れが考えられます。
しかし、実際にはこうした流れで進めている一貫校は少数派のようです。
例えば、中2まで体系数学1と体系数学2まで進め、中3からは(高校数学鉄板のカリキュラムである)数Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ…という流れで学習するというように、高校範囲からは体系数学を使用しない一貫校がかなり多いという印象です。
ということで、体系数学2と体系数学3の間には分断が生じているように思えます。
なぜ分断が起きるのか?
こうした「分断」が生じている原因として、大学受験の影響が大きいのではないかと思います。
首都圏においては「中高一貫校」の比率はそれなりに高いものの、全国レベルで見ればMinority。
「中学校で3年間勉強して高校受験をし、その後高校で3年間勉強して大学受験する」という流れが主流です。
高校数学には数Ⅰ、数Ⅱ、数Ⅲ(あるいは数A、数Bなど)といった確固たるカリキュラムがあり、高校の検定教科書もこの流れに沿って編纂されています。
さらに、理系と文系に分かれている現行の大学入試制度において、文系の場合には高校では数Ⅲは勉強しなかったり、あるいは、数学が苦手な場合には、受験科目に数学のない大学(各部)を選択するケースも多いわけです。
通常の高校カリキュラムでも(数学履修の)分断が起きているわけです。
となると、(高校に入ったあたりから)現行のカリキュラムと体系数学のカリキュラムとの連動がとりにくくなるという事態が生じます。
例えば、「大学受験では数Ⅱまで必要だが、体系数学はどこまで進めればよいのか?」、とか、「市販の数Ⅱの参考書を買ったが、分からない部分を確認するのに、体系数学の場合はあちこち参照しなければならない。」といった具合です。
高校検定教科書(数研出版であれば「改訂版 数学Ⅰ」)を使えば、それをサポートする傍用問題集(例えば「4STEP」)があり、さらに市販の数学参考書(例えばチャート式)なども豊富に存在します。
結局、大学入試を考えると、現行の高校数学カリキュラムに則った方が、教える側(学校)も教わる側(生徒)も進めやすいということになるように思います。
中学・高校で全員が学ぶ内容について「学ぶ順番を入れ替え、少しスピードアップして(5年間で)学ぶ」ということであれば、体系数学の分断は起きにくい(=中高一貫校が一気通貫で使用する率は高まる)と思いますが、入試制度との兼ね合いがあるのでなかなか難しいのだろうと推測します。