共通テスト「数学IIB」がセンター試験的発想では対処困難な理由【大学入試2022】その2

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共通テスト「数学IIB」がセンター試験的発想では対処困難な理由【大学入試2022】
前回は、第2回大学入学共通テストで出題された数学I・数学Aについて見た。今回は、数学II・数学Bについて考えてみたい、こちらも第1回に比べて大きく平均点が下がっており、受験生の悲鳴めいた怨嗟の声がSNS上を駆け巡った。なぜ受験生は数学IIB...

 

石田 数学IIBの選択問題では、第3問の確率分布と統計的推測は一般の入試ではあまり出題されないため、学校でも扱わないことが多いのです。そのためほとんどの受験生は、第4問の数列と第5問のベクトルを選択します。第4問は入試後の報道でも「長い問題文」で話題になりました。共通テストが問おうとしていることを理解して、対策をとっていることが必要でした。

第3問はなかなか面白い問題なので、最後に扱いたいと思います。

第4問(配点:20点)

――では、まずは数列を扱っている第4問から見ていきましょう。確かに、問題文が4ページもあり、とても長いですね。

石田 状況の説明になんと丸々1ページ使われています。これが「長い問題文」として話題となったところです。ですが、次ページにグラフ(ダイヤグラム)が親切に与えられています。このグラフを見ながら問題文を読んでいけば、条件の把握はそれほど難しくなかった。問題はこのような要領を身に付けていたか、でしょう。一般に、数学の設問は厳密性が必要なため、得てして説明が長くなります。そのようなときは、素早くポイントだけ取り出せばいいということを、普段の演習を通じて体得していれば対応できたでしょう。

石田 自転車が歩行者に追いついては、また自宅に戻ることを繰り返す、という状況設定なのですが、これは共通テストが念頭に置いている「日常生活の事象」なのか、という点はやや無理があると思います。

第4問は文章が長いですね。 🙂

中学受験で出てくる「旅人算」を想起させるようなダイヤグラムがあったりして…。

また、文章を読んで問題(状況)を理解するのに意外に時間がかかると思いました。日常的なことを扱っているようで、設定にはかなり無理があるという気もします。

問題文の指示に従って、小さい数から考えて問題構造をとらえると、x軸方向が数列a、y軸方向が数列bであることを利用して、時刻と位置をaとbを用いて表すことができます。

この後は、数列aと数列bの関係から漸化式を作って、(特性方程式を利用して)具体的に数列を求めていくことになります。

漸化式の解き方などは完全に忘却の彼方で、解説を読んで「そう言えば、漸化式はこうやって解くんだったな…」みたいな感じでしたので、この問題についてはこれ以上のコメントは差し控えたいと思います。

第5問(配点:20点)

石田 この問題は、“内積の値が負のときの角は鈍角になる”という定性的理解がまず必要でした。∠AOBが鈍角であるとして図を書かないと混乱したかもしれません。この点をクリアさえすれば、(1)は基本問題となります。

――ここでも、図を素早く手書きできることが大切になるわけですね。

ベクトルも完全に忘却の彼方なので(解説を読めばわかる程度なので)コメントは控えたいところですが、問題文の条件を満たす図が正確に描けるかどうかが最初の大きなポイントになると思いました。

第3問(配点:20点)

最後に、第3問を見ていきましょう。こちらは確率分布と統計的な推測を扱っていますが、問題文が5ページで、最後の1ページは正規分布表です。

石田 この問題を選択する受験生が多くないため、第3問は世間ではあまりきちんと分析されていないように思うのですが、今年の問題はこの単元の理解を深く問う問題で,かなりの実力を要求する問題だったと思います。ただ、他の2つの選択問題よりも処理量はかなり少ないので、深く本質まで理解できていれば、この問題の選択が有利だったように思われます。

第3問は、収穫されたジャガイモの中に一定の重さ以上のものがどれくらい含まれているかを推定する問題です。(1)、(2)は基本ですが、正規分布についての正しい理解がないと、教科書レベルではあまり出てこない数値が扱われているので戸惑ったと思います。

(3)では実際のデータに対して数学的モデルを導入し、データを定量化して扱うという見方が使われています。このような処理は数学IAの施行テストの中で以前に扱われていたのですが、この統計的推測の単元で取り上げられたという点で目新しかったといえます。やはり、与えられた方針の読解がポイントとなり、確率密度関数の定義・意味といった本質的な理解が重要となりました。

誘導が与えられていたとはいえ、確率密度関数から積分を使って期待値を求めるという作業は、教科書レベルではあまり練習していないと思われるので、本質的な理解をしていなければ対応できなかったのではないでしょうか。

また、最後の一定の重さ以上のジャガイモの割合の推定での計算は、確率密度関数のグラフ内での面積の割合を求めるのだから、積分を実行するのではなくて、図1のように算数的に考えられると、すぐに答えが出るようになっています。ここも複眼的な見方が求められていたと言えます。

第3問の確率分布の問題は非常に面白い(かつ意欲的な)問題と思いました。

数学1Aの第2問[2](データの問題)や数2Bこの問題は、統計学に対する知見を高めるために、社会人も解説などを参考に学習してみる価値がある問題だと感じました。

(1)はジャガイモの重さの話で、離散型確率分布である「二項分布」の基本を扱います。ℤがB(400,0.25)となるので、平均(期待値):E(ℤ)=400・0.25=100,σ(ℤ)=√n・p・q=√400・0.25・(1-0.25)=5√3となります。

(2)で、重さ200gを超えるジャガイモの比率として、新たな確率分布をℝ=ℤ/400とすると、σ(ℝ)=5√3/400=√3/80となります。

次に、ℝを正規分布とみなして、P(ℝ≧x)=0.0465となるxを求める問題となります。正規分布表は面積領域を表しているので、0.5-0.0465=0.4535となり、正規分布表から1.68が読み取れます。

よって、x=0.25+σ(ℝ)×1.68=0.25+(√3/80)×1.68=0.28633となります。計算が少し面倒ですが、正規分布表の読み取りには良い問題だと思います。

(3)は面白い問題です。ジャガイモ1個の重さ(x)を連続型確率変数とみなし、標本平均(μ)=180gを計算されたところから議論がスタートします(100≦x≦300)。

花子さんは度数分布表を(右下がりの)直線(一次式)と考えて、確率密度関数をf(x)=ax+b(100≦x≦300)を積分して∫f(x)dx=1から、確率密度40000a+200b=1 … ①の関係式を得ます。「全確率=1」となることから、「確率密度関数を積分した結果が1になる」という点を理解しているかどうかを問う問題です。

一方、確率密度関数をf(x)とすると、期待値(m)は、m=∫xf(x)dx=180となり、この式から、m=……=180 … ②を得ます。なお、計算結果はすでに印刷されているので、改めて計算する手間は不要です。

①、②式を連立させてa=3,b=11が求まり、確率密度関数f(x)を求めることができます。

偏差値などでもよく用いられる「正規分布」ですが、正規分布の確率密度関数を(数学的に)求めようとすると、前提としての「ガウス積分」の知識が必要となります。

さらに、ガウス積分の前提となるガンマ関数(ベータ関数とガンマ関数)、あるいは重積分の素養が必要になったりするので、数ⅡBあたりから積み上げるとすると、道のりはそれなりに遠いと思われます。

特に、私のような文系学部出身者の場合、きちんと理解しようと思えば、まず手始めに数3レベルの内容を独習し、次に大学の初等数学あたりから積み上げていかないとなりません。いずれにしても、かなり時間と労力が必要となります。

しかし、確率密度関数を一次関数として考えれば、数学ⅡBの範囲でも十分議論ができるわけで、面白い問題だと思いました。

意外に勉強している学生が少ない分野のようですが、大学入学後は文系学部でも統計学を学ぶと思われますし、社会人になってからの実用性も考えると、高校段階でしっかり勉強しておいて損にはならない分野だと思います。

 

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