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そもそも、大学に若い人だけがいるとか、高校を出た人がダイレクトに入学してきて、誰も社会経験がないという状態は、異常なことで、大学としてもったいないと私は思っています。
(中略)
経営学や経済学などの社会科学は特にそうです。若者だけだと、社会に出たことのない学生が、見たことも経験したこともないものについて、あれこれ語り合っているだけになります。
そこに、経験者が「ビジネスをするとこうなる」と語ってくれる状態があれば、ずっと議論はリッチになるでしょう。
アメリカの大学では、一度社会に出てから大学(学部)で学び直すケースが比較的多いですが、「学卒を一斉に雇用する」という慣行が根強かった日本では、(社会に出た後で)再び大学(学部)に戻るというケースはあまり多くないですね。
それでも、大学(学部)を出て何年か社会人を経験し、再び大学院(修士など)に戻って勉強するケースは、増えてきているように思います。
私も経済系の学部出身で、大学で経営学とか労働経済学とかを学びましたが、正直、まったく面白くなかったですね。
自分自身社会に出て働いたこともないし、(当時の)教授陣も企業経験がない方が大半だったので、「机上の空論」のようで、実感が得られなかった印象がありました。
しかし、自分が社会に出てある程度の経験と実践を積むと、社会科学分野における自己の経験値をもう一段高いレベルから俯瞰して体系化したいと考えるようになりました。私の場合、その思いがMBA留学に結び付きました。
MBAでは、戦略論、マーケティング、ファイナンスや組織論といった社会科学系の学びが中心になるので、入学に際しては社会人経験が必要になります。大学(ビジネススクール)側も、「最低3年~5年」といった社会人経験を要求しています。
ただ、最近ではビジネススクール側の苦しい台所事情(=志願者の集まり具合が芳しくないこと)もあり、新卒者を受け入れざるを得ない面もあるようです。
学生時代に既に起業経験があれば別ですが、(学部から)実務経験がないままに直接ビジネススクール(MBA課程)に入っても、(経験値が少なく、結果的にチームに貢献できないので)居心地が悪いと思うのですが…。
いま、大学は、お金持ちの子どもでなければ、いいところに受からなくなっているのが現実です。かなりのお金をかけて受験勉強した人が勝ち残りますし、地方にいると、都市部の大学に出ていくこと自体にお金がかかり、教育機会の格差が開いてしまうというのが課題です。
やはり、入試に過度に負担がかかり、お金もかかっています。ですから私は、まず、選考なしで誰でもオンライン授業を聞いてもらい、そこで良い成績を修めることができたら、奨学金を給付してでもキャンパスに呼ぶ、ということをやってもいいのではないかと思っています。オンラインなら、地方のどこにいても平等ですからね。
日本は、コロナによって、それまでの文化ではありえないほどの変化を起こし、オンラインが急速に入ってきました。やろうと思えばオンラインもできるという実感を得られたこと、この経験を獲得できたことは大きいと思います。これをいい糧として、教育も、オンラインを有意義な形で活用できるといいなと思います。
今のテクノロジーでは、オンラインでのディスカッションには限界があります。ただ、オンラインには、キャパの制約を受けないというメリットがあります。今後は、オンラインとリアル、それぞれの特性を生かすということになるでしょう。
確かに、「入学試験を受けてその大学に4年間通う」以外の選択肢も必要かもしれません。例えば、大学間の単位互換性。
地方在住の学生の場合、地元の大学に入学して教養課程の単位を取得していく。そこで優秀な成績を修めれば、例えば東大などに専門課程から編入することができるという制度です。
アメリカでは、入学する大学と卒業する大学が違うということがよくありますが、そうした制度があってもよいと思います。
一方、社会人の教育の在り方も変わってくると思います。
例えば、MBAなどへフルタイムで留学するという重量級(?)の学位取得というのは、今後はそれほど増えないのではないか、と思います。
ビジネスで必要とされるスキルや知識の変化のスピードは益々速くなり、しかも、学んだ内容をすぐに現場で試してフィードバックを受ける方が合理的です。
例えば、北米のMBAに留学する場合、2年間は仕事から遠ざかるわけです。(考えてみると)ビジネスに役立つ勉強をしているのに、(留学期間中は)仕事に活かせないわけで、ある意味矛盾しています。
学んだ内容を利用する頃(卒業する頃)には、学んだ内容がすでに陳腐化しかけているリスクもあります。
もっとも、多少陳腐化しても、卒業後にブラッシュアップし続ければ良いのですが、数年もブラッシュアップを怠っていると、学んだ内容はほぼ無価値になってしまいます。これが、数学や物理学などの自然科学とは違う社会科学の宿命でもあります。
したがって、ビジネス全般を本格的に学びたければ、仕事を続けながら社会人向けのMBAコース(EMBA)で学ぶとか、あるいはビジネス全般を総花的に学ぶのではなく、自分にとって必要な内容や身に付けたいスキルなどをピンポイントで学びに行くというスタイルが増えるのではないでしょうか。
また、オンラインの活用も大きなテーマでしょう。確かに、オンラインは対面式の代替にはなりませんが、例えば、(前提となる)基礎知識などを学ぶのにはオンラインの方が適している面もあります。
対面式とオンラインのハイブリッド型というのが今後の潮流になると思いますが、大学という教育現場における事例の蓄積を通じて、ノウハウの開発に期待したいところです。
(東大に限りませんが)社会人の再教育の場として、大学に期待される役割は大きいと思います。