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■「逆算思考」をやめる
まず考えていただきたいのは、子どもの「学力」とは何を指すかということです。
・テストの点数を上げたい。なぜなら、受験に役立つから
・受験していい学校に入りたい。なぜなら、いい企業に就職できそうだから
・いい企業に入りたい。なぜなら、安定して幸せに生きていけるから
もし、そうした抽象的な未来への不安を解消するために保険をかけるような「逆算的な意識」があるならば、「それは古い考え方かもしれない」と疑ってみてください。
従来のやり方では現代社会を生き抜くのは困難だという危機感から、日本の教育は探究学習へとベクトルを向け直しつつあります。これはつまり、テストで点を採る「学力」から、どんな状況においても自ら「学ぶ力」へ価値観がシフトしてきたということです。
この記事の「逆算思考」という考え方から、ゲーム理論の「後ろ向き帰納法」(Backward Induction)を連想しました。(望ましい)ゴールから逆に遡ることで、ゴールに至る最適ルートが見い出せるという考え方です。子供のころにやった「あみだくじ」と同じで、「当たり」から遡ってスタート地点を探すという発想です。
「短期」的で予見可能な課題については、逆算思考は有効
「逆算思考」が全く無意味ということはないと思います。
例えば、「来週に迫ったテストに向けて、どういう勉強をしたらよいか」というように、比較的短期で予見可能な課題に対応する場合には、逆算思考は有効です。
また、少し時間軸を伸ばして、子供の受験や大人の資格試験においても、逆算思考は有効だと思います。というのも、ゴール(実施時期、出題される問題のレベル、選考基準等)が予め決まっているからです。
但し、時間軸が少し長くなると、ゴールへ至るルートが複雑になっていきますし、「ゴールがそもそも適切なのか?」という問題が出てくるので、その点は注意が必要だと思います。
(超)長期的課題には逆算思考は限界あり
ゲーム理論やあみだくじで「逆算」が有効なのは、すべての情報や選択肢が盤面(紙の上)に現れているからです。つまり、将来に対する完全な見通し(=情報)を持っている(=全知全能)という前提があれば、「逆算思考」は有効な手段です。
しかし、これは現実離れした前提で、実際には限定合理性(bounded rationality)の中で様々な意思決定を行うことになります。
遠い将来(抽象的な未来)を考える場合、あみだくじであれば、縦線や横線が時間とともに書き加えられたり、あるいは、消されていたりするでしょう。あるいは、「当たり」のある位置も変わったり、時の経過に伴って「当たり」自体が既に無くなっているかもしれません。
時間軸が長くなればなるほど、(固定的な)逆算思考だけでは対応できず、柔軟な思考、失敗を恐れない前向きな思考、自分で物事を考える力など必要となっていきます。
探究学習の意義
従来の日本の教育の問題があるとすれば、それは知識を覚えたり、やり方を会得した時点で終了していたことにあると思います。
本当に必要なのは、学んだ知識を使ったり、さらに不足する知識を補ったりアップデートして、自ら学ぶ姿勢を失わないこと。さらに、自分自身が問題設定を行い、答えのない問題に取り組むことだと思います。
「探求学習」は全く新しい概念ではなく、以前から存在している学習方法の言い換えに過ぎないと思います。そして、「探究学習」は、ある程度の知識を前提に展開されてこそ意味を持つものだと思います。
ただ、日本の国力低下とその根底にあると考えられる教育に対する危機意識が、「探求学習」重視に現れているように思います。