はじめに
中学受験においては方程式を使わずに、「特殊算」と言われる算数的な解法で解くケースが一般的です。
今日は、中学受験で習う「和差算」、「つるかめ算」、「過不足算(≒差集め算)」といった「特殊算」と(中学以降で習う)「方程式」について考察したいと思います。
なお、学習指導要領では、「一次方程式」は中1で、「連立(一次)方程式」は中2で習いますが、体系数学のような中高一貫校用検定外教科書を使っている場合には、連立方程式を含めて中1で(まとめて)学ぶことから、以下の説明も、連立(一次)方程式を前提にしています。
なお、体系数学など中高一貫校で使う「検定外教科書」の功罪については、いずれ記事にしたいと思います。
和差算について
【問題】兄と弟はあわせて2700円持っています。兄は弟より500円多く持っています。 兄の持っているお金はいくらですか。 |
受験算数の考え方(解き方)
中学受験塾では、以下のように線分図を描いて解くわけですが、ポイントは、2人の所持金の差をなくす(=金額をそろえる)ことです。その結果、「兄2人分が3200円」という形にすることができます。
方程式による解き方
一方、上記のような問題を中学では「方程式」で解きます。参考までに、以下は方程式による立式と加減法による解答です。
方程式を使った解法では、未知数を文字に置き換えて立式すれば、後は「加減法」や「代入法」を使って機械的に解けてしまいます。
方程式を使った解法で、「2x=3200」という式が出てきますが、これは「和差算」の「兄2人分の所持金が3200円」という意味になります。
和差算と方程式の違い
和差算では、「兄(又は弟)にそろえよう」という明確な意識が解法の根底にあります。「兄×2=〇〇円」という形にしようという明確な意識をもつ必要があるわけです。
一方、方程式の場合は立式さえできれば、「x=1600」という答えにいかに効率よくたどり着くかが目的となるわけです。したがって、途中に出てくる「2x=3200」の式の意味を改めて問うことはないでしょう。
語弊があるかもしれませんが、和差算が(最後まで)目的意識を持って解いているに対して、方程式は立式がすべてであり、その後は無意識に解いて(解けて)いるという気がしなくもないわけです。
つるかめ算について
【問題】1本60円の鉛筆と1本110円のボールペンを合計24本買うと1890円でした。ボールペンを何本買いましたか。 |
受験算数の考え方(解き方)
受験算数では、「面積図」を使った解法が多いようですが、ここでは式による解法で説明したいと思います。
ポイントは、「タラレバ」です。求めるのが110円のボールペンの本数なので、「もし、1本60円の鉛筆を24本買ったら…」と考える所が出発点となります。
もし、1本60円の鉛筆を24本買ったとすると、60×24=1440円で、実際の代金より(1890-1440=)450円少なくなります。
次に、60円の鉛筆を110円のボールペンと取り換えるごとに、(110-60=)50円ずつ増えることに注目します。よって、ボールペンの本数は、450÷50=9本となります。
式でまとめて表すと、買ったボールペンの本数は、(1890-60×24)÷(110-60)=9本となります。
もっとも、学習初期の段階では、鉛筆とボールペンを取り換えたら合計金額がどのように変化するかということを、表などを使って腹落ちさせることが重要です。
方程式による解き方
方程式の場合は立式がすべてなので、以下のように立式すれば後は機械的に解くだけです。
なお、上記の方程式を「加減法」で解く場合を例に、「つるかめ算」の比較を以下で行っていきたいと思います。
つるかめ算と方程式の違い
ここで面白いのは、方程式で登場する
「60×(x+y)=1440…②´´」の式です。つるかめ算との対応関係を明確にするため、敢えて(x+y)と括弧でくくっています。
(加減法を使うために変形した)②´では、①のxの係数(=60)にそろえるために両辺を60倍しているわけですが、「つるかめ算」の視点で見ると、「1本60円の鉛筆を24本買ったら…」という考え方に相当しています(②´´)。
方程式では、「係数をそろえて一文字消去する」という計算プロセスから無意識に出てきた感のある②´ですが、「つるかめ算」では「もし…だったら」という思考から「意識的に出てくる式」という違いがあります。
「つるかめ算」(特殊算)で解く方が、「解いているという実感」が持てるのは、式の意味を考えながら解き進めることができるという点にあるのではないか、と思います。
差集め算(過不足算)
最後は「差集め算」です。
【問題】生徒が長椅子に座るのに1脚につき5人ずつ座ると28人が座れなくなります。一方、1脚につき7人ずつ座ると、誰も座っていない長椅子が1脚と2人しか座っている長椅子が1脚できます。生徒は何人いますか。 |
受験算数の考え方(解き方)
上記のような問題は、受験算数では「過不足算」または「差集め算」と称します。予習シリーズでは5年生のちょうど今頃習う単元だと記憶しています。
「差集め算」、「過不足算」という名称はこの際どうでも良いのですが、「差に注目する」ということがポイントとなります。
この種の問題では、2つの未知数(「椅子の数」と「生徒の数」)が出てくるので少々厄介ですが、「椅子の数」に注目し、「椅子に座る人数の差(=1脚当たり2人)」を使うのがポイントです。
また、この問題では「7人ずつ座った場合」のイメージが(慣れないと)少し難しいという点があるかもしれません。
ここでは、
(1)「誰も座っていない(あと7人座れる)長椅子」…1脚
(2)「2人だけ座っている(あと5人座れる)長椅子」…1脚
(3) 7人座っている長椅子 … 残りの椅子
ということを、問題文から読み取る必要があります。つまり、7人掛けでピッタリ座るには生徒があと12人いれば良いということになります。
「差集め算」にはいくつか解き方があると思うのですが、参考までに1つの解答例を挙げておきます。
方程式による解法と「差集め算」との関係
上記の「差集め算」を方程式を用いて解けば以下のようになります。
②の式(または②´、②´´の式)をみると、「7人ずつ座った場合にまだ12人座れる」という「差集め算」の状況を表していることが分かります。
また、「2x=40」の式から、「長椅子1脚につき2人の差が集まって40人の差になっている」ことが読み取れます。
ここでも、「差集め算=意識」、「方程式=無意識」という関係が読み取れます。
特殊算を学ぶ意義
繰り返しになりますが、方程式は立式さえできれば途中式を意識することなく機械的に解くことができます。汎用性のある強力なツールではありますが、それは中1(または中2)で中学生全員が学ぶ内容でもあります。
一方、特殊算は「式の意味」あるいは「ゴールとなる式のイメージ」を持ちつつ解く必要があります。解き方が何通りもあるので汎用的ではありませんが、意味を考えながら解く必要があることから、「解いている実感」が持てるというメリットがあります。
また、「方程式」には目的地に最も早く到着できる(ビジネスの)出張経路のような合理性を感じます。指定列車に乗り込めば(=立式すれば)、あとは眠っていても目的地に到着できます。車窓から見える(いつもと同じように見える)風景はあまり印象に残らないでしょう。
一方、「特殊算」は鈍行列車を使った旅行のようなものでしょうか。
目的地に着くまで時間はかかる(≒非効率)かもしれませんが、列車の車窓から見える風景を楽しむ余裕が感じられます。
いずれにしても、小学生の段階では「特殊算」を学ぶ意義は大きいのではないかと思います。